(1)中世の西欧では、ぎっくり腰を「魔女のひと突き」と呼んでいました。
 靴下はき、洗顔、クシャミなど、日常の何げない動作でも生じ。あれよあれよという間に。
 大の男が腰を抜かし。なぜか、寝返りも出来ず。あまりの痛さに、「もう、俺の人生も終わりだ」と
 泣き叫んでいた者が、10日も過ぎれば、他人事の様に、ケロッとして笑っている。
 ぎっくり腰のこの変わり様を、魔女の仕業(ユーモアをこめれば魔女のイタズラ)に例えていました。

(2)ぎっくり腰の定義
 @ぎっくり腰には、正式な、共通の定義がいまだありません。
 A広い意味では、急に生じた腰痛すべてを指します。
 B最近は、やっと、原因として、急性の腰椎捻挫を指すようになりました。
  私がこの道に入った30年前は、神経、筋肉、血管、関節、骨その他、色々原因を論じ合っていました。
  腰にも、椎間関節という関節があります。
  指や手首や膝などの関節と同じ、普通の関節(関節包、関節軟骨=関節刻面などが揃っている)です。
  その関節が捻挫を起こしたのが、狭い意味でのぎっくり腰です。

(3)当院でのぎっくり腰の捉え方
 @急性の腰椎捻挫(=急性の椎間関節炎)をぎっくり腰としています。
 A痛みの強弱、生じ方は一定でありません。

 Bしかし、「魔女の一突き」とも呼ばれた重症のぎっくり腰は、症状が一定です。
  日常生活が出来ない(=破たんしている。また、椎間関節も破綻している)ことから、
   当院では「破綻型ぎっくり腰」と呼んでいます。

 C急性の腰椎捻挫では、破綻型ぎっくり腰(=重症の椎間関節炎)を中心にとり、
  他を、破綻型ぎっくり腰(=軽症の椎間関節炎)とに分けて治療します。
  両者は、症状の経過(椎間関節の炎症のたどる道)と、治療方法が大きく異なるからです。
  このように分けることで、腰痛全体の理解にもつながり、治療が向上します

 D椎間関節炎と言ってもイメージがわかない人が多いと思います。
  腰の中心のことで、厚い筋肉に覆われ見えないからです。
  「腰の突き指」と連想すると、とても理解しやすいです。(下記で説明します)
  (但し、成長期の、子供の突き指をイメージして下さい。日常の何げない動作でも生じます。
   大人の突き指は、明らかな外傷によるもので、趣を異にします)

 Eもちろん、慢性の腰椎捻挫(=慢性の椎間関節炎)もあります。
  一般で考えられているよりも、椎間関節の障害による腰痛は多いです。
  「ギックリ」と言う表現は、急性の腰痛に似合います。慢性の腰痛には使いません。

(4)破綻型ぎっくり腰とは
 @以下のような一定した、共通の特徴的症状です。
  1)重い物を持ち上げた時など、明らかな原因(外傷)もありますが、
   日常の何げない動作でも成ります。
  2)当日か翌朝には、痛みがピークになります。
  3)寝返り動作が最も困難になり、腰が抜けたようになります。
   立ち座りでも激痛を生じます。
  4)動作時の激痛の割に、立ってしまえば、どうにか歩けます
   但し、立位と歩行時は、腰は棒状になっています。
   これを、腰のたゆみ(腰を前、後、横に曲げること)が欠如している意味から、腰の不撓性といいます。
  5)正しい処置をすれば、痛みのピークは1〜3日以内です。
  6)その後は、日に日に良くなり、正しい処置をすれば、5〜7日で全快します。
  すなわち、1)〜6)まで、全てに揃っているのが「破綻型ぎっくり腰」です。

 A以上の痛み方と経過は、椎間関節が炎症を起こした仕組みそのものです。また、突き指そのものです。
  椎間関節が突き指を生じたとイメージすれば、病気に対する不安が無くなり、治療もスムーズにいきます。
  「魔女の仕業」でないことが理解できます

 B椎間関節は、左右、2つ並んでいます。
  その左右2つの椎間関節が、同時に炎症(突き指)を起こしたのが、「破綻型ぎっくり腰」です。

 C片側だけの椎間関節が炎症を起こしたケースは、「片側型ぎっくり腰」と呼んでいます。
  片側型ぎっくり腰では、痛いながらも寝返りは出来ます。腰が横に曲がることがしばしばです。
  片側型と破綻型とは、明らかに症状、経過、治療が異なり、区別しています。

(4)腰の椎間関節炎(腰の突き指)を理解するための解説
 @腰は、「月へんの要」と書くように、体の要です。
  椎間関節や椎体などは、一つのユニットで、腰の要です。
  椎体は、そのユニットでの、支える働きの要で、椎間関節は動作の要です。
  すなわち、椎間関節は、動作の上では、体の要の要の要です。

 A立ち座りなどの動作時の体動時痛が激痛です。
  特に、日常では無意識に行われている、寝返り動作での痛みが特徴的です。
  その辺を念頭に置いて、下記の解説図を読んでいただければ、理解しやすいです。

    数字の解説
1:下関節突起 12とで一つの関節を成す
関節包、関節軟骨のある普通の関節椎間関節を成す
2:上関節突起
3:肋骨突起と 椎体 筋肉が付きやすく、働きやすい形をしている
4:棘突起




































「破綻型ぎっくり腰」の特徴的な症状と、その解説
      特徴的症状                解 説
1)発症の契機 日常の何気ない動作でも生じる 筋肉の疲労、短縮などにより、関節突起の噛み合わせにゆとりが無くなり、昨日できた靴下はき動作でも「突き指」を起こす。
関節での変形性変化(腰椎分離症等)の進行なども原因となる。
2)炎症の経過 当日か翌朝には炎症がピークになる 関節が単純で小さいため、瞬時に広まる。
日中は、周りの筋肉が頑張って、関節の動きを止めているため気が付かない。
夜間はリンパ球の活動が活発なため、むくみ(炎症)が進む。
翌朝に腰が抜けていて、驚くこともある。
3)立ち座り
 起き上がり
 激痛である 体全体での動作の要の要の要である。 むくんで腫れ上がっている、上下の関節刻面が90度前後、無理やり擦り合わされるためである。
4)寝返り動作 激痛というよりも、腰が抜けた感じで寝返りが一苦労である 寝返りをしようとする時に、反射的に、関節包、周りの靱帯、筋肉を緊張させる働きが破綻しているため。
無理して寝返りをすれば、炎症がさらに盛んになるため、反射経路(腰が無意識に棒状になること)が働かず、腰が回らない。
5)歩行 体動時が激痛の割に、立ってしまえばどうにか歩ける 周りの靱帯と筋肉が精一杯頑張って(筋肉の過緊張)、関節が触れあわないように、動かないように、必死に支えてくれる。→そのツケ(過緊張の継続)が後々まで残り、腰痛が慢性化してしまうことがある。
6)炎症の予後 炎症のピークは1〜3日である 何気ない動作で生じて、関節包などの傷が少なければ、免疫系による修復は早い。






















寝返り困難を生じる腰痛の見分け方
   病 名 寝返り困難度の強弱          病気の説明と寝返り困難を起こす理由
破綻型ぎっくり腰  強度 腰の単なる「突き指」だか、「体の要」に有るため、大病に感じてしまう。
腰椎の圧迫骨折  最強度 この病気は高野豆腐を連想すれば良い。料理をする前の高野豆腐は、とても硬い。腰椎の圧迫骨折は、その硬い高野豆腐が、一瞬の内に、調理された柔らかい煮付けになるのと同じである。煮て柔らかくなった高野豆腐を、再び乾燥?させ、硬くしなければならない。普通の骨折と同じく、骨の細胞が少しずつ硬くしてくれる。そのため、1〜3ヶ月の安静臥床を余儀なくされる。数日では、痛みは全く軽くならず、同じ激痛が続くことが、破綻型との大きな違いである。
腰下部の圧迫骨折は、墜落か骨粗鬆の存在がなければ生じない。高齢者のぎっくり腰では注意が必要。
破綻型では立ってしまえばどうにか自分で歩けるが、本症では、抱えられなければ歩けないことが多い
椎間板ヘルニア 強度も下肢痛が伴う 椎間板には、髄核と呼ばれる、プリンプリンとしたゼリー状の物が、真ん中にある。その髄核が外に飛び出た(脱出)のが、ヘルニアである。飛び出かたにより、後方、側方、大量(巨大ヘルニア)などがある。
椎間板と髄核は痛みを感じない。側方に飛び出ると、そこにある神経の根本(神経根)と接触し、神経根が炎症を生じ、神経痛となる。神経根の痛みは、痛みの王様である。すなわち、神経根炎による神経痛のために、腰や脚が痛み、寝返りが困難となる。
飛び出た髄核が、小さく干からびる(萎縮する)まで、痛みが続く。1〜2ヶ月以上の、椎間板と神経根との安静が余儀なくされる。
非破綻型ぎっくり腰 軽度〜やや強度  片側型ぎっくり腰、変形性椎間関節炎、炎症が軽度で済んだ両側性椎間関節炎などがある。
破綻型ぎっくり腰は一生に一度のことが多い2度目、3度目と繰り返すと、寝返り困難度が軽くなる。関節の過敏性低下などが想定される。関節滑膜などのデリケートさが低下していくのだろう。寝返り時の、腰が抜けるほどの、破綻は見られなくなる。
筋筋膜性腰痛  軽度 まことしやかに鎮痛剤のコマーシャルなどに取り上げられる、筋肉に乳酸などの老廃物が溜まり、筋肉痛が発生することは、今もって医学的には証明されていない。当院でも、老廃物により、寝返りに支障を生じるほど、強い筋肉痛を発生するのは、想定外である。
腰の筋肉は、手足の筋肉のように肉離れ(筋肉の繊維の断裂)は無い。運動する(運動筋)より、支えるための筋肉(支持筋)で、腱が無く、丈夫な筋肉の膜の袋(筋膜)に覆われているからである。肉離れによる痛みはないが、筋膜が骨の膜(骨膜)から剥がれる痛み(筋膜骨膜結合部の炎症)を生じる。剥がれが増す、一定方向の動作時に痛みを発生する。寝返り動作がそれほど困難になることはない。ポイントを間違わなければ、最も治りやすい急性腰痛である。
転移性骨ガン
   による腰痛
軽度〜最強度。
安静時痛、夜間痛が漸増する
骨のガンのほとんどが、他に生じているガンが転移したものである。そのため、骨ガンによる腰痛から、大本のガンが見つかることもある。
骨ガンによる痛みは、ガンの細胞が骨膜、関節、神経根など、不特定に取り憑き、炎症(浸潤)を起こすもので、動作時の特徴はない。しかし、浸潤によるものため、安静時にもジワジワとした頑固な痛みをみるのが特徴である。特に、夜間はリンパ球の活動が盛んになるため、炎症が増強し、寝返りをしなくても痛みで悩まされる。








































 ぎっくり腰   の治療